2003/08/09 リコルスの街
「しれとぉこぉ〜のみさぁきぃにぃぃ〜♪あまなつぅ〜がさぁく〜こぉろ〜〜♪」
言うまでもなく”甘夏”じゃなく”ハマナス”なのだが、コルトレカンに着く前からセレはこの歌をご機嫌に歌いまくっている。
リコルスについてもそのご機嫌は変わらない。
あまりにご機嫌だから訊いてみた。
「おい、セレよ。そんなにご機嫌でコルトレカンに何かあるのか?」
「さぁ〜?コル島には来たことないから、僕、分かりません♪」
「・・・」
思わずセレの頭をげんこつでぐりぐり。
さて、冒険者やら観光客やらで賑わう街リコルス。
ひときわ賑わいを見せるのがコミランセ広場。広場の周囲には街の名物”リコルス饅頭”の屋台が並んで観光客がみやげ物にと買い求める姿がみてとれた。
そしてちょうど広場の真中あたりに黒山の人だかりができていて、その人だかりの上にはとってつけたような木製の屋根がのぞいている。
「井戸、その辺じゃないですか…。コイン投げると願い事叶うんですって。」
興味本位に人垣をかきわけると案の定古びた井戸がある。覗き込んでも底までは深く暗くて見通すことはできそうにない。
「信じるものは救われるとか言うし、試しに願い事でもしてみようよ。」
「で?いったい何を願うんだ?世界平和でも願うか?」
「防具が欲しいわ♪」
「杖が欲しい♪」
「俺は強い斧がいい」
コインを握りしめたPTメンバーの願い事は存外現実的だ。
古井戸の願い事はともかく、俺はそのとき少々気分が悪くなっていた。
街には独特の匂いが染みついているものだが、このリコルスにもそれがある。特に冒険者の集まる街に多いのはアニマリックな匂い。冒険者に染みついた、あるいは冒険者の連れる獣たちの、それはまあいい。俺はセレほど嗅覚が敏感でもない。
が、古井戸をとり囲んでいる観光客風の女たちから放出される匂いに俺は辟易した。スパイシーでウッディでフローラルでスモーキー、それらの香水のごちゃまぜの香りに頭痛と眩暈がしてくるのだ。
俺は早々にコインを井戸に放り込むと人ごみを離れ、広場の外れからPTメンバーを眺めた。彼らはまだ願い事を決めかねているようだ。
ならば単独行動も悪くない。俺はひとりコミランセ広場を後にした。
街には酒場、宿、鍛冶屋、薬局、ペット用品店などさまざまな店が軒を連ねている。人ごみを避けてひとつの路地に入り真っ先に目についた武器専門店に入ると、適当に武器を手にとって感触を確かめてみる。どれもなかなかだ。そしてふと目に付いたのは通路脇に無造作に立てかけられているひとつの巨大な銀の斧。
「まさかり???」
武器というより伐採用だろう。それを両手で振り下ろしてみると意外に馴染む。
「面白い。これをもらおう」
俺は持っていた手斧と防具を売りさばき、銀の斧とレザージャケットを装備して店を出た。まさかりを宙で振っても意味がない。
夕刻、俺は街を出てリコルス郊外の細い街道を歩いていた。
宿に戻って荷物のないのに気づいたのか、セレが通信機から連絡をよこした。
「ああ、セレか」
「ああ、じゃないですよ。トシさん、急にいなくなっちゃって。今どちらですか?」
「ん?ああ、ちょっと森へな」
道の先には緑あふれる森林が広がっていた。
まったりと旅は続きます。
サイドストーリーず!
Ver.1.00
(c)Seleste