2005/01/12 Cocktail

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「くらうんさん、一つ聞いてもいいですか?」
 カウンターの向こうにいる子供に呼びかけられ、「くらうん」――★Clown★と呼ばれたバーテンダーは、ちら、と視線だけそちらに向けた。

 ここはフローリア諸島の一つ、コルトカレン島の玄関口・リコルスのとある酒場。片隅がショットバーになっていて、バーテンダーとして腕に自信のある冒険者が、上の階に併設されている宿屋の部屋代代わりや、ちょっとした食事代を稼ぐ為に臨時日雇いとして入る時もある。

 そこに、知り合いの姿を見つけて、今に至る。

「…何スか、セレさん」
 目つきと愛想が非常に悪いその知り合いは、言葉少なに、「セレ」と彼が呼んだ子供の前にカクテルを置く。
 見かけは子供だが、セレは立派な大人だ。
 見かけが子供だという事に関して、★Clown★は敢えて聞かない。
 冒険者というのが、いろいろな事情を抱えている事は往々にしてある事で、それを、固定パーティメンバーではない自分が知っておく事は無い。言いたければそのうち向こうから話すだろう。それでいいのだ。

 それに、子供だろうが大人だろうが、料理や酒の味が分かるのであれば、別に酒を提供してもいいだろうな、どうせ、ある意味全てが自己責任の「冒険者」が相手なのだから――とも思う。

「くらうんさんって、カクテルお好きなんですか?」
「…どういう意味ッスか?」
 出されたミルクティ色のカクテルを一口、口にして、セレは顔をほころばせながら質問を切り出した。
 出されたカクテルは、「ジンジャーミルクティ」。
 ブランデーの入った、生姜のきいたミルクティのカクテルは、きっと外の冷え込みがいつも以上に厳しかったからだろう。
 それは、立ち仕事の★Clown★も同じだったらしく、誰も他に客のいないカウンターで、彼も同じものを手にしていた。
「だって、いつだったか別のところでみなみさんたちと宴会した時にもオゴリでカクテル作ってらっしゃったですし、お好きなのかな?って」
「…最初は趣味だったンスよ」
 一口すすって、★Clown★がちょっとだけ笑う。
「以前、この島に渡る直前まで仲間だったヤツがいて、そいつの為にってのが、趣味を超えちまった理由ッス」
「その方、どんな方なんですか?」
 肴で出されたビーフジャーキーを摘んで、先を促すセレに、どこか遠い目をして★Clown★が語る。

「そいつは、すっげー強い女っした。
 剣はそこそこだったけど、刀持たせりゃあ多分、敵う人間なんて居やしねェって感じで……アイツも腕に自信があンのか、よく一人で敵に突っ込んでっては、返り血で血まみれになって帰って来やがって」
 血なまぐさい話でスンマセン、と、自分のカクテルを一口すすって。
「美人ッしたよ。
 真っ黒い長髪をいつも結い上げて、たまに下ろしたりなんかすると、すっげー色っぽくて。
 でも、刀持って戦ってる姿が、何つーか、それが一番綺麗なんス。きっと見とれる位ェに」
 ★Clown★の脳裏には、今でもその姿がはっきりと残ってるのだろう。
 ふぅ、と軽くため息をついて、彼は続ける。
「そいつがまた、酒好きな癖に激弱くってッスねー。
 一口飲んじまったら即虎。
 そこで大人しく即撃沈すりゃあいいものを、なまじ外見が悪くねェから幾度と無くナンパされて…」
「あー…それは…」
 アイタタタ、とセレが頭を抱える。
「そのたんびに大立ちまわり。さっきも言った通り、弱くねェんスよ。
 だから、大体声掛けて来たヤツ達が返り討ち。
 でも…それで済みゃあまだマシな方ッスよ」
「え?」
「それでも意識が残ってる時は…『罰ゲーム』と称してまぁ、色々と。
 オレが一番見てて凄かったのが、一人だけ残しといて、ソイツに自腹切らせて向かいの屋台のタイヤキ屋でつぶあんのヤツ全部買い占めさせて、その内1個を割って、自分が持ってたミントのタブレット全部詰め込んで、無理やり食わせてたッス」
 あんこミントの味を思わず想像してしまったのか、セレが口を押さえて顔を背けた。


「……それを見てるだけだったってのも……」
 しばしの間の後、ぐっ、と顔をあげて返したセレに、
「酔っ払いにまともに付き合うの程、割に合わない事はねェッス」
 と、淡々と★Clown★が返す。
「んで、性質悪ィ事に、飲んだ後の記憶が綺麗さっぱりねェンスよ」
「うっわー…」
 俗に言う、酒乱である。
「…よく、付き合えましたね…」
 万感のこもったセレの呻きに、
「自分に被害が来なけりゃ無問題ッスから」
 と、平然と★Clown★が答える。
 そんな彼は、酒に関しては笊を越えて枠だから、きっと彼女のフォローなんかもしてきたのだろう。
 そして――相手の女性も、そんな彼に向けてはきっと、自分の酒癖の矛先を向けたりなどしなかったのっだろう。
 きっと、多分。
 そう思う事にセレは決めた。
「そいつに、『舐める様に啜る様にして味わえ』って一度、カクテル出したら飲めちまって。
 それ以来宿使う時に不定期にせがまれては作り…ってやってたら、身についちまいました」
 口で言う程、カクテルの世界は簡単ではない。
 広くて、深いのだ――それをセレは分かっているから、敢えてそれ以上「彼女」についての言及はしなかった。

 そのうち、男女のカップルらしい冒険者がカウンターに来て、彼に注文を出す。
「アイツに甘くて強いのを」
 と、女性に聞こえない位の声で、男の方が出した注文が聞こえてきて、セレは気分を悪くした。
 直ぐにでも立とうか、そう思って空けたグラスを置くと、こちらに顔を向けた★Clown★が、気分良さそうにウインクをしてみせた。
 そうして、セレの目の前で、淡々と作り始める。
「…こちら、<アフロディテ>になっております。
 お客様へはオリジナル<スパイクドドッグ>を」
 そうして二人に出したカクテルは、一つはロゼワインと木苺のリキュールにホワイトキュラソとライムジュースを加えたもの、そしてもう一つは…
(…どう見ても、<ソルティドッグ>なんだけど…)
 作り方を見ていたからセレにも分かったのだが、どう見てもソルティドッグ。
 ただ、ラベルの無い、見慣れないウォッカ「らしい」瓶に、首の後ろがチリチリする様な、しない様な…
 乾杯、とグラスを合わせて、颯爽と口にした男の方が、しかしグラスを置いた途端、カウンターに突っ伏した。
 口を押さえてのたうち回る男に興ざめしたのか、女はくい、とグラスを干すと、料金を男にツケて、そのままカウンターを立ち去った。

「…あーいった野郎に一撃で沈む程強ェの出して、反応見るのが逆に趣味になっちまってッスね」
 あー、やめらんねェ。
 小さくくつくつと笑う★Clown★の背中を、セレは唖然として見つめるのだった。

 どうやら、犬の中身は相当ゴッツかったらしい、と。

******

 グローエス地方の都市・ルアムザのとある旅団施設。
 一緒に飲んでいた仲間の、幸せそうな寝顔をみつつ、自分もうとうとしていたのだろう――セレはふっと我に返った。
 ★Clown★――今は二つ名ではなく、薫と名乗る知り合いの冒険者との、そう遠くは無い昔の事を思い出す。
 目の前にいる女性は、薫の知り合いで太嘉。
 術式を中心に戦うセレとカルバートを守るべく、フローリアの頃からのセレの知り合いの戦士・ステファンと共に、剣を手に切り込む女剣士だ。
 彼女の手元には、空になったグラスがひとつ。
 ゆっくり、舐める様に啜る様に味わって空けて、コトン、である。

 ――なんで、こんな事思い出すんだろ。

 少し酔ってしまったのか、セレの頭の、今思い出した事柄に霞がかかる。
「部屋に戻ってていいッスよ。
 オレが部屋に戻しとくッスから」
 久々に落ち合った薫、うきっぱと共に――未成年のカルバートと面白い程に下戸であるステファンは先に休んで――薫が作るカクテルで話に花を咲かせてたっけ、と、なんとなく思い出して、セレは薫の言葉に甘えて部屋に戻ろうと腰を上げた。


 とある夜の、とりとめのない、おはなし。

 ―終―

まったりと旅は続きます。


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サイドストーリーず!
Ver.1.00
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