2004/10/31 Trick or Treat!

 今日はハロゥイン。
 フローリア諸島にそんな風習はないのだが、どうやら数多いる冒険者の一握りが、そういった風習のある地方の出身だった様で。
 そんな訳で、意味も知らない者が大半を占める「おまつり」として、フローリアに定着した、様である。
 この日ばかりは、冒険者たちも島民たちも、全ての諍いを無い事としてバカ騒ぎする。
 よほど差し迫った事情がない限り、街道筋だろうが山道だろうがおまつりムードがない場所はない。
 たとえ、切り株の向こうだろうが、山奥深い清廉な泉だろうが、モンスターしか居ない塔の中だろうが、はたまた森の奥深くの落とし穴の中だろうが。
 
 …本当は某地方の「収穫感謝祭」から来てるのだから、「おまつり」と言っても大して変わりはないのだけれど。

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歳三の場合。

「Trick or Treat!」
 ノーブルワイトに化けたセーレと、ナラフのきぐるみを着たセレストを見て、歳三は数秒、呆気にとられた。
 そして今日が祭りである事を思い出すと、
「…まあ、そこに座れ。
 ついでだから茶を飲んでいけ」

 歳三は、(借りてきたのだろう)和服を身にまとい、抹茶を点てていた。

 ――30分後。

「和服のトシさんも格好いいよねー」
「けど、あのお茶すっごく苦かったよねー」

 和菓子を貰ったことは貰ったが、お菓子を頂いただけで席を立つのはダメだ、と飲まされた抹茶は、まだまだ二人の口には合わない様だった。

「んー、でもセーレ、この和菓子美味しいね〜♪」
「うん。もうちょっと貰ってくればよかったなぁ」

 ――茶の湯で頂く和菓子は、抹茶を頂く前に食するものである。


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うきっぱの場合。

「Trick or Treat!」

「うわっ!
 うわわわわっ!」

 知った声に、しかし急に背中から声を掛けられて、うきっぱは驚いて振り向いた。
 その動作で、うきっぱの背中に、セレセレの手が触れてしまう。

 次の瞬間、二人のセレセレは宙を舞っていた。

「ごめんごめん、やっぱりセレセレだったんだ。
 ファンファンが静かだからそうかなーって思ってたんだけど」
「あうー…」
「オフの日ぐらい、Pスキル…」
「いやだって…」
 さっきノエルさんに会って、聞いた話なんだけど、とうきっぱは続けた。

「ノクトワイさん、こっちに来てるらしいって」

 ぶるり、と身を震わせたうきっぱに、セレセレはちょっとだけ同情した。

 
 でもお詫びにと、ケーキとお茶をおごってもらった。


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マウスの場合。

「Trick or Treat!」
「はいどうぞ」
 
 マウスは、とてもよく気が利く男だ。
 それが彼の処世術なのだろうか。
 彼は、セレセレの行動を(もういい加減)読めていたのだろう、ちゃんとお菓子を二人分用意して待っていてくれたのだ。

「に…」
「ふ…」

 ただし。

「にょえええぇぇぇぇ!!」
「ふぇえええぇぇぇぇ!!」

 誰が作ったのだろうか、オズルマのきぐるみを着て。

 似たような叫び声を同時に上げて逃げていくセレセレを見送るマウスの後ろで…

「ありがとうございますっス。
 これ、お礼っス」
「ありがとう♪ …あ、マフマフ団子だ〜」
「オレが見よう見真似で作ってみただけで、本物じゃあないっスけど」
「ううん、とんでもない。
 後でみんなで一緒に食べるね」

 赤い髪の少年がVサインを出していたのは、ここだけのひみつ。

 
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みなみ酒店の場合。

「Trick or Treat!」
「…なんだ、お前らか」
 おおかた予想は付いていたのだろう、その予想通りやって来たセレセレを見て、みなみ酒店は追い払う様に手を振った。
「お子様に用はない。
 今オレは、向こうのカフェテラスに居る女性をどう口説こうか考えているところだ」
 見るとそこには、一人で優雅にお茶をしている、グラマラスな女性がいた。
 長い白銀の髪に純白のワンピース…でも、髪の量が多くて、顔までは分からない。
「えー!」
「えー!」
 口を揃えて講義の声を上げるセレセレを尻目に、みなみ酒店が立ち上がった。
「ここはひとつ、側の花屋で小さな花束を作ってもらって…」
「いーもん、みなみさんのバカ〜!」
「お菓子くれなかったらいたずらしてやる!」
 セレセレが「いーっ!」と変な顔を作ったあと、セーレがポケットから何か小さなものを取り出した。

 それは魔法のコンパクト。

 呪文を唱えて次の瞬間、ぼふふん、と煙幕があたりに立ち上る。
「お前ら〜」
 二人まとめてぐりぐりしてやろう、どうせあいつらロクなモンには化けないからな、とみなみ酒店が振り向いたその目の前で、煙幕の中から細い腕がにゅん、と出てきて、みなみ酒店の両腕に絡みついた。
「みなみさ〜ん」
「待ってよ〜」

 やや、甲高くなった声に、みなみ酒店の頭の上に「?」が浮かぶ。
 その一瞬が命取りだった。

 そこに居たのはセレストとセーレだった。
 ただし、本人の姿はそのままに。
 セーレはグラマラスな、セレストはスレンダーな女性体型になっていたのだ。
 しかも二人とも超薄着。

「…な…っ」
 半歩引いたみなみ酒店に追いすがる様に、セレセレはぴったりと体を密着させた。
 鎧が冷たいが、この際文句は言ってられない。
「ねぇ、みなみさん…トシさん言ってましたよね」
「ボクたち、みなみさんのペットみたいなものだって」
 昼間とはいえ、結構人目も人気も多い酒場の中。
 お子様の目も、今日に限っては非常に多い訳であり。
 普段の姿でも結構問題発言区域に入る台詞を、さらり、と二人して言ってのける。

「ボクたち…たいくつです…」
「…おなかすいたです…」
 
 みなみ酒店も、頭では二人がセレセレだと分かっている。

 いるのだが。

 超薄着のおねぇさん満載の雑誌の誘惑に勝てないみなみ酒店が、元も中身もセレセレとはいえ生身の超薄着のおねぇさんの誘惑に勝てるかどうかは推して知るべし。

「「いぇいっ☆」」
 5分後、元の姿に戻ってハイタッチをかますセレセレの姿があった。



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おまけ。

 今日はハロゥイン。
 大人から子供がお菓子を貰える日。
 多少の無礼講には目をつぶって貰える。

「とゆーことで…」
 セレセレは、二人が口説こうとしていた女性にお菓子をねだろうと、気配を消して背後から近寄っていき…

「Trick or Treat!」
「!!!!!!」
 女性はびくん! と全身を震わせて椅子から落ちた。
 その拍子に、カツラがズレた。

「あー!」
「ふらっくさん!」
 
 それは、ユーリに化けた☆Flack☆だった。
 ご丁寧に、赤いカラーコンタクトまで使っているのだろうか、ちゃんと目が赤い。

「あー、びっくりした…セレセレさんかぁ」
 はうー、と大きく息を付いた知り合いに、セーレが尋ねた。
「一人でお茶ですか〜?」
「うん…もうすぐ★Clown★が来ると思うの。
 後でステさんたちとも合流するよ〜」
「…お待たせしましたッス」
 セレセレの後ろから、低くて心地よい声がした。
 ★Clown★だ。
「あー、こんにちはくらうんさん!」
「お久しぶりで」

 挨拶しながら振り向いて、★Clown★を見上げた二人が、最後まで言い切れずに固まった。

 そこに居た男は、声さえ出さなければ★Clown★とは分からないだろう。
 なぜならば、アラセマ正規軍の軍服に身を包み、超ド派手な飾りの付いた仮面を被っていたから。

 床を転がって大爆笑するセレセレを、仮面を外して困った様に見下ろす仲間に、☆Flack☆は困った様に言った。

「ねぇ★Clown★…それはお化けじゃないよ」

○○○○○○○○

「私の仮面はもっと地味だった筈だが…」
「詰め物してるんでしょうけど、私の方がまだもうちょっと、胸があると思いません?」

 バカ騒ぎの様子を見ながら、きぐるみぺリオンとマリシャスシンガーがぼそぼそと言い合う。

 そのすぐ横を、般若の形相で、金髪碧眼の軍の若者が走り去っていった。

まったりと旅は続きます。


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サイドストーリーず!
Ver.1.00
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