SuperTaikyu Series 2006 十勝24時間耐久レース参加

2006年7月15日〜17日
スーパー耐久シリーズ公式サイト
Driver Inside REPORT
スーパー耐久十勝24時間耐久レース参戦記


ひょんな事から、普通のBMWオーナーである私が、プロのレース「スーパー耐久・十勝24時間耐久レース」に参戦することになりました。体制は「DQCC牧口レーシング」で車輛レギュラーのE46-M3と私が乗車するスポット参加車両の E36-M3の2台体制となります。

大変な事態になってきました。きっかけはチームの登録ドライバーがキャンセルして、どうしても1名ドライバーを探さなければいけなくなり、その条件で、E36-M3を日頃乗っていて国内Aライセンス所持者でサーキットを走っている人間という事で、監督と知り合いの私に白羽の矢が立ちました。チームメイトには何と、元F1パイロットの片山右京さん、小林且雄さんがいらっしゃり緊張が高まります。




7月14日(金) 

牧口レーシングチーム全員で、午前中に十勝帯広空港に到着する為に、羽田空港に集合しました。チームメカ、ドライバーと初めて会う方ばかりなので、緊張しながらも挨拶をしました。助っ人メカさんも交えて総勢、20人オーバーでの体制です。(2台体制の為に現地でも助っ人さんがたくさんおられた事に驚きました)

事前の天気予報では、レースウィークは終始、雨模様で一抹の不安を感じながら十勝入りをしました。
当日の十勝は、予想は外れて幸いにもよいお天気となりました。
空港で1BOXのレンタカー4台を借りて、直ぐにサーキット入りです。こういう地道な事からレースは成り立っているのだな、と妙に感動しました。手配するにも手が空いていれば監督が率先して行い、リアルにレース活動を垣間見た気分です。私も率先して一緒にレンタカーを借りに行きました。

空港から20分で現地に着くと、既に練習走行が始まっていました。我々のピットの場所は、ピットレーン入り口の直ぐ近くで、最終コーナー側に位置しています。つまり、レース戦略的に少しだけ不利な位置となります。ドライバーとしては、最終コーナーから出て直ぐにサインボードを見ないといけないので、見落とす確立は高くなりますし、メカとしてはピットイン時に、いきなり車が現れるので、用意を事前にしないといけません。夜間だと見にくいので誘導も厳しくなります。

今回の私の乗るマシン、ゼッケン72番「E36-M3」に初対面しました。既に陸送で機材一式と到着していました。ホワイトボディにチェッカーフラッグの模様が、BMWのモータースポーツを強調していて、とても格好いいです。E46-M3と共にローダーで運ばれてきていました。
また、他に10トン車輛が2台到着していて、その中には2台の車輛のそれぞれ2台分のパーツや準備品がてんこ盛りで積んであります。

使い込まれている、テレビに机に冷蔵庫に電子レンジと、ピット内でセッティングされていて飲み物も箱でケースがたくさん置いてあります。
このような日常では、当たり前で細かい事は、テレビや雑誌では見られない部分で、人間が生活しながら戦うという事を認識させられましたし、レースと言う緊張感漂う非日常のピットの中に、家庭用品が鎮座しているギャップに、妙な安心を感じました。

今回の十勝はS耐のシリーズ戦の中でも特別で、24時間の長丁場もそうですが、競技の格式が「国内格式」では無く「国際格式」となる点です。
つまり、国内A級ライセンスで走れていたのが、十勝に限り「国際C級以上のライセンス」で無いと走れません。
国内Aは、受講すれば頂けますが、国際Cライセンスになると、国内JAF戦においてレースに出場して完走を最低2戦しなければ推薦を頂けません。

メディカルチェックも国内格式では、当日にだけありますが、国際格式になると事前にメディカルチェックを受けないといけません。

私は、事前に用意していなかったので事務局に相談して、近くの医療所にメディカルチェックを受ければ参加できる確約を取り付けて急いで用意に走り、本日の練習走行は走れなくなりました。

同じ車輛のチームメイトの橋口選手(漫画家さん)が、喉が痛いというので、大事を取って一緒に診療所にいきましたが・・・北海道は広い。カーナビが役立ちません。畑の真ん中に連れて行かれたり、途中間違って、大きく綺麗な「獣医」に入りかけたり、一苦労しました(笑)

医療所では、ドクターに「レーサーさんですか?凄いですね」と聞かれ恥ずかしくも無く「はい。レーサーです」と偉そうに答えましたが、なりきりプロレーサー・・・とても気持ちがよかったです。ごめんなさい。

視力検査と心電図も取り、急いでサーキットに帰りましたが、昼間の練習走行にやっぱり間に合いませんでした。
夜間走行は、私は大事を取って走りませんでしたが、橋口選手がいきなり1分32秒台の好タイムをだされました。私の監督からの希望タイムは35秒台なので・・・はてさて大丈夫でしょうか?(笑)

夜間走行1時間を終了して、チーム全員で帯広市内のホテルに戻り、荷物を置いて居酒屋さんで決起大会を行いました。他のチームにも方針はあるようですが、このように集まって顔をあわせるというのは、とても大切なのだと思いました。




7月15日(土)

どんよりとした天気ですが、曇ったり晴れたり不安定な天候ですが、やはり空気がおいしいです。
今日は、公式車検と装備品検査、ドライバーミィーティングがあり、車検の方は、メカさん達が車を試験場に押して行って受けました。シリーズで戦っているのでノウハウは当たり前にあるので一発合格です。
装備品検査とは、参加ドライバーの装備のチェックです。ヘルメットからレーシングスーツ、インナースーツ、グローブからシューズ、靴下と身に付けて運転する装備の「FIA公認番号」のチェックをするのです。
FIA公認番号とは、FIAが許可した装備品に番号がふってあり「FIA8856-2000」という番号が無いと、走ることが出来ません。

余談となりますが、2000と言う番号は2000年を表します。ただし、グローブだけは2006年の12/31までは、F1等以外は、前公認番号の「FIA1986」が使用許可されています。
スーツ類、グローブ、シューズなど有効年数は20年となっています。1986番号は1986年から20年まで有効ですよ、と言う事です。つまり2006年まで公認効果がありますが、FIAからグローブ以外は、2000年モデルに変更すると通達があり、それに従っています。
20年使い続けていいよ、と言うものでは勿論ありません。劣化したり傷ついたり、汚れたりすると燃え易くなったりして、性能が発揮できません。スーツ類は洗濯する回数は、20回程度で限界といわれています。インターネットで安価な装備品は、必ずFIA公認番号をチェックして「FIA8856-2000」のモデルを買うようにして下さい。
ヘルメットはスネル規格で7年が有効年数ですが、新しく買う場合は「スネル2005」の番号を付いている最新の物をお勧めします。

さて、装備品チェックですが、慣れているドライバーばかりなので手押しの台車に荷物を置いてうけているのは、格好いいのか悪いのか、プロのドライバーを身近に感じました(笑)

さて、ドライバーミィーティングですが、草レースでいつも受けている情景とさほど変りはありませんが・・・回りの顔ぶれが豪華です。横を見ると本山哲選手に服部選手、その先に影山選手に中谷明彦選手に、前には砂子塾長にターザン山田選手、後ろに太井選手と近藤真彦選手は何故か立ち見していました(笑)周りは本当に名前と顔の知っているプロドライバー達で新鮮なドラミでした。

公式練習は午前と午後と夜間に1時間ずつあります。

午前の練習で、いよいよレーサーのE36M3に初ドライブです。
不安な点が、変速機がE30M3スポエボと同じ、Hパターンで通常のパターンと異なる点です。1速がバックギア、2速が1速となり5速ミッションとなっています。勘違いしないかどうかがとても気になるところです。そしてスタートのクラッチの繋ぎ方。非常に難しいのです。走り出してしまえば全く問題無いのですが・・・「格好悪い〜」と言われるのだけは何とか避けたいと(笑)緊張が高まります。
ドアの部分はゲージがクロスになっているので、乗り降りがかなり窮屈です。
シートベルトも5点式で、他のドライバーの乗り降りや運転姿勢を見ているだけでも急速に心細く不安になってきました。

他に緊張を高める点が、そのスタートの「エンスト」と初めて被るヘルメット・初めて着るレーシングスーツです。眼鏡をかけるので曇りも心配ですが、新品ヘルメットなので、被り慣れないので頭が締め付けられるようで少し痛いです。そしてスリックタイヤ。経験がありません。どうなる事やら・・・。

1ヶ月前に十勝に向けての練習として、茂木の草レースの12時間耐久に出場し、レーシングM3に乗ったのですがスタートが本当に難しい。
その時も御一緒した、エンドレスのスーパードライバーの村田信博選手に「すみません、スタート、エンストしちゃうのですが・・・」と恥ずかしながら聞いたのですが、村田選手は、本当にいい方で親身になって教えてくれ「大丈夫ですよ。僕もエンストしちゃうから。焦らず、焦らず」と回転を上げて繋ぐ方法を教えてくれました。

F1のマシンのピットアウトのように回転を上げて「スパッ」と繋いでリアタイヤを滑らしながら猛ダッシュしていく「あの」感じです。
そして、一番うれしかったのがプロの村田選手より「現場ではプロドライバーとして接しますから、キチンと与えられた仕事を一緒にこなしましょう」と言う言葉で、少し認められた気になり気合と緊張が、ググッグと上がります(笑)





そして、いよいよ私の番です。事前にドライバーチェンジの練習と確認はしていたので、心臓の鼓動が高鳴りながらも、ドアを開け、ベルトを外し、ヘルメットから出ている無線機のコードを外して、ドライバーが降りるのを助けます。交代して私が乗り込み補助をしてもらい、シートベルトを締めてもらいスタンバイ準備OKです。身体の自由は全く無く、ただの練習走行なのに、汗が噴出し、眼鏡が曇り、もう心臓が口から出そうです。

無線でチーフメカの和尚さんの指示でエンジンスタートの合図。震える手でキルスイッチをオンにしてデフクーラーのスイッチをオンにして、スターターボタンを押しました。

「ウォン!ウォン」とかなり甲高いエキゾーストですが、まさにそれはM3の音です。
いよいよ、スタートとなり神経をクラッチに集中して、抵抗がなくなる時点で「スパッ」と繋ぎ瞬間にアクセルをいれました。「ウォン・・・オォォーン」やりました!成功です。

スタート一つでこの有様です(笑)

ミス無くピットロードを60キロ制限で走ります。このピットロードを走るのはなかなか緊張したりします。速度計が無いので60キロオーバーするとペナルティですし、いくつものピットにプロのチームがいてたくさんのプロドライバーが当然居るので、見ているわけでも無いのですが、視線を受けていると勝手に思って緊張していました(笑)
ウィンカーを付けて、ピットアウトラインを踏まないようにコースインです。

コースイン時は、特別な緊張感がありますが、これまでの緊張が嘘のように冷静に走れます。それは普段から親しんだM3のそのものだからで、ミッションパターン以外は、いつもの風景です。コースは初めて走るので、慎重に走ります。慎重と言ってもブレーキングを多少早めにして、余裕を持ってコーナーに進入しコーナリングスピードは低いですが立ち上がりは常にアクセル全開です。

コースを暫く走って緊張が溶けてきました。眼鏡の曇りも治りました(笑)レーシングM3のトルク感は物凄く、エンジンの回転の上がりも素早いです。2ストロークバイクのような吹け上がりの早さです。エンジンは8000回転まで回りますが、燃費と耐久性を考えて設定を6000回転をリミットとしてその回転域になるとLEDがまぶしく光って教えてくれるので、競り合いでメーターを見なくてもオーバーレブの心配はありません。剛性感も素晴らしく、通常のM3とは全く比べ物になりません。スリックタイヤも気になる癖もなく、普通にアクセルを踏んでいけました。




十勝のコースは、2速で回るヘアピン以外は、他のコーナーは3速で走ります。メインストレートでは、5速まで入るのですが、長さが1`あるのでストレートエンドでは5速、8000回転近くまでいってしまいます。

凄い大迫力です。

窓を開けているので風の音と、エンジンの咆哮で車速が上がるにつれ、鳥肌立つくらいの迫力です。例えるなら高さ世界一といわれるジェットコースターが天辺から駆け下りていく迫力に近いです。分かりますか?怖いけど、また体感したい感動です。そして「うおぉぉぉ〜」と、自然と声が出ます(笑)

そして、1コーナーですが、速度にすると200キロオーバーからの突っ込みで「怖いかな」と思っていたのですが、そこはレーシングM3で、絶大なブレーキの効きと信頼感、車体の剛性感と脚周りのセッティングで、怖さが感じられないのは驚きでした。試に200m看板からブレーキを入れてみたのですが、まだまだブレーキが余ります。100mからでも余裕で停まれますが「耐久レース」なので、パッドとローターの消耗を少なくしたい為に130m付近から、そろりとブレーキングをして5→4→3と落とし1コーナーを回ります。

15分走りましたが、いまいち、攻め方が掴めません。無理しないので、ここは無難に走る事にしました。

3速で回る最終コーナーは複合になっているので、ここも難しいポイントです。コースアウトや接触は避けたいので、ここも無難に走る事に決めました。本当はここで車速をあげれば、1キロある直線の最高速の伸びが違うのでタイムアップには重要なポイントです。

自分の役目は、無理せずにステイントを走りきる事ですので、タイムを削る走法や試みはしません。と、自分に言い聞かせて・・・15分の走行は終了しました。ベストタイムは1分42秒と、皆より8〜10秒も遅いです。監督がタイムを見て困って焦っていたので申し訳なかったです(汗)。

初走行の感想は「おもしろかった」です。アンダーもオーバーも出さずに車任せにスムーズに走りました。コーナーポストの位置とメインポストとピットサインの確認をメインに走りましたが、レースカーのBMWの走りの良さに楽しませていただきました(監督ごめんなさい)

十勝は予選がありません。しかし我々のE36-M3号72号車は、十勝のスポット参戦となるのでドライバー全員が、午後の練習走行内で基準タイムをクリアしないと決勝を走る事ができません。

基準タイムは1分50秒以内です。監督から「ゆっくり流しても1分40秒だから大丈夫」と励まされましたが、緊張が止まりません。午前のタイムが42秒ですから余裕がありません。速いマシンは1分25秒くらいで走ります。私達のクラスVだと、1分32秒前後が平均タイムとなります。

まずは、山村選手がスタートでエンスト2回。山村選手は、バリバリの元FJ1600レーサーなのに・・・さらに待っている私を緊張させます。クラッチが強化クラッチとなっているので、通常の半クラは使えません。私以外の他三名は、きっちりと1分32〜4秒台で合格タイムをだしています。

さて、本番の基準タイムクリア走行の順番が回ってきました。

そーっとクラッチを離して、繋がる手前でアクセルをいれます。

「フォン・・・オォーン」やったぁ。またまたスタート大成功!ピットロード60キロの制限速度対応の為にリミッターをチーフメカの和尚さんが自作したスイッチを入れると1速、3800回転で回転が上がらない仕様で、まんまF1マシンの雰囲気に緊張と高揚しました。コースインして2速、3速・・・あれあれ?リミッターが効きっ放しで回転が上がりません。トラブルです!計測時間は15分しかないので大変です。

急いで無線で連絡してピットインを目指すのですが、80キロも出ない車でコースを走るのは危険です。ハザードを点けてインベタで走りながら、決勝に出られない・・・と最悪のシナリオを考えていたら「ブォン!オォーン!!」といきなり吹け上がりました。よし!いけそうです。

無線で復活したのを告げて走行再開です。皆と10秒落ちはレースにはならないので、3周を目安に少しだけトライしました。1コーナーと最終は、ゆっくり走りますが、そのほかのコーナーの旋回速度を上げてみました。

ピットサインで「37」の数字が出たところでピットインして、監督を安堵させる事ができました。1分37秒です。よかったぁー。皆さんと5秒落ちまで持っていけました。車を壊したり接触したり迷惑を掛けてはいけないので、攻めないで余裕を持って走ってタイムアップしたのは本当にうれしいです。漫画家の橋口選手(プロ並に速い方)から「5秒もタイムが縮むなんておかしいい」と笑われました(笑)

走行が終わったところで、雷雨か嵐のような大雨と雹が降ってきました。強風で各チームのサインテントが飛ばされて壊されています。ピットもあと少しで水没までいきました。これがレース中なら大変なアクシデントです。一抹の不安を感じながら、午後7時からの夜間練習に、予定の無い私が突然乗ることになりました。私の担当は朝6時から2時間のステイント1本の計画だったのですが、この天候を見て決勝では計画が変る恐れもあるので、夜間走行に慣れさせたいとの事でした。

「見慣れるだけでいいから飛ばすな」と指示がありましたが、言われなくても飛ばしません(笑)
スリックからセミスリックに履き替えて、コースインします。

路面は、川になっている場所が突然目の前に迫り、非常に驚きスリリングですが、全体的には夜間走行は走り易い印象です。各コーナー手前のコーナーポストがライトアップしてあり「コーナー番号」が綺麗に見えます。つまり、初心者の私からすると、勘違いしていた2コーナーと7コーナー(7コーナーが一番怖い)の見分けが付き易く、大きなヒントにもなりました。

1周した時点で雨が強くなり「危ないから早く帰ってきて〜」とピットインの指令がでて、残り時間ありましたが、セッションは終了して片付けをして、明日に備えるために、皆で早めにホテルに戻りました。雨が最大の難関です・・・せめて小雨でと願い、体重計に乗ると体重76キロ。ついに目標の1ヶ月に10キロ減作戦成功!明日に向けてよい兆しが見えてきました(笑)




7月16日(日)17日(祝)  決勝 午後3時〜午後3時

さて、決勝の朝がやってきました。天候は、雲が厚くいつ降ってきてもおかしくありません。濃霧も十勝では有名ですから、皆で腹を括りました。

私の出番は、翌朝の6時からなので緊張感は少し解放されていますが、イベントがひとつあります「ピットウォーク」なるものです。だんだんとお客さんが増え、カラフルなノボリもたくさん上がり、コースも決勝の雰囲気で盛り上がって来ています。27号車の片山右京選手が、手が空いている様子だったので、いろいろとお話をさせて頂きアドバイスを貰いました。気さくでな方で、ファンを大切にする姿勢は見ていて頭が下がります。

13時から50分ほどの「ピットウォーク」が始まりました。椅子をピット前に並べて私達ドライバーが座り、両横にはチームのキャンギャルさん2名が立っています。テレビで見たあの光景です。まさか、私がこのような体験をするとは思いませんでした。お客さんがドドッと、本当にたくさん来られました(恥ずかしい〜)
勿論、構えるカメラの先は、キャンギャルのお2人で、私たちは4人で遠くを見ていました(笑)時折、橋口選手の漫画のファンのお子さん達がドッドッとサインを貰いに来られましたし、片山右京選手の周りは人だかりが絶えません。恥ずかしかったですが貴重な体験をさせて頂きました。

コースインの支度が始まり、コースに車輛を押して所定の位置に収めます。
コース上は、レース関係者やカメラマン達が大勢出て大変賑やかです。ライバルチームに関係なく、それぞれ歓談しています。スタート担当ドライバーの橋口選手も、白木選手も山村選手も、何故か持ち場を離れてカメラ片手に、他のドライバー達と記念撮影をしています(笑)監督が「誰もいねーじゃん」と慌ててみんなの首根っこを掴んで連れ帰ってきました(笑)

アナウンスによる選手紹介も済んでドライバーを残して全員退去です。雨雲が厚くコースを覆ってきましたが、いよいよフォーメーションラップが始まりました。

午後3時にローリングスタートからスタートでレース開始です。
総台数35台のレースカーが一斉に1コーナーに向って走り出しました。無理な争いは全車せずにペースを保ちます。
さて、私の出番は15時間後なのですが、何があるか判りません。レーシングスーツを着たまま、ピットでモニターを眺めます。
このモニターは、ラップタイムやコース内映像を見られる特殊な映像ですが、実はテレビケーブルが付いているモニターがあれば、ピットにある配線に繋げば簡単に見ることが出来ます。

モニターでは刻々とラップタイムから総合順位クラス順位と表示されます。
私達のクラス3には、7台のエントリーです。M3が2台の他に、Zが2台とRX7が2台、NSXと強敵ばかりです。監督の事前の作戦と予想では「速さは無いが燃費がよいので、ピットストップ数が少なくロスタイムを稼げるので、計算すると22時間後には3位に入っている。だから坦々と走ろう」と言う事で、さらに上位に何かあれば、ひょっとしてひょっとするのでテンションが上がってきます。

表彰台に上がったADVANユーザーには、非売品のADVANウィナーズキャップが頂けるので、私は前から狙っていました・・・取れるかどうか(笑)

雨が降りそうな天候ですが雨に至らず、順調に各車、周回を重ねています。午後6時にケータリングサービスが来て並べられ、さながらホテルのバイキングのようで、メカサン、ドライバーとも時間を見つけては、ぱくつきます。食べ物に彩があるので、戦いの中でも楽しい気分にさせてくれる食事でした。

大きなトラブルも無く、また雨も降ることなく夜8時になって監督から「寝なさい」と指示があったのでチームがレンタルしたプレハブ小屋に寝に行きました。耳栓を持っていないとたまりません。プレハブの周りをレーシングカーが走り回っているわけですから、
半端な騒音ではありません。眠るのは大きな仕事ですが、私は熟睡してしまったようです(笑)





監督が「クラッシュしたので起きてきて」と揺り動かされて起きた午前12時過ぎ・・・・・・大変です。

ナイトランは危険な時間帯です。軽く霧が出てさらに走りにくい状況です。

ランサーが無謀にイン側に突っ込んで、M3が押し出されリアホイルを割るくらいのダメージでしたが、ドライバーには怪我はありませんでした。ホイルをとりあえず交換し、チェックで下側を見たら、デフを吊る部分に少しクラックが入っています。部品で換える箇所では無いので方法は溶接しかありません。

とりあえず周回数を稼がなければいけないので、普通に走行する分には問題ないので、準備するまでそのまま走らせます。
メカさん達は、あちこちのチームに交渉しにいきましたが、溶接機を持ち込んでいるチームが無ければリタイヤです。
あきらめかけていた所に、溶接機を持っているチームがあり快く貸して頂けました。

レース中にエンジンを交換したチームもあるくらいですから、各チームいろんな備品は持ち込んでいますが、溶接機持参チームには驚きましたし助かりました。こういう非常時は各チーム、助け合う姿勢は何とも感動的です。

火気を使用するので、ピット内作業は出来ません。ピットをスルーして外に出しジャッキアップして作業開始です。チーフメカの和尚さんは、何でも出来るメカさんで溶接を始めます。チームが見守る中、作業は結局1時間近く掛かってしまいました。
でも、チームの誰もあきらめていません。ここにきてチームが一丸になりゴール目指して気合が入ります。

ドライバーチェンジに伴い、私の出番が前倒しになり、何と午前4時に走行となりました。
4時と言うのは北海道では日の出の時間ですが、まだまだ真っ暗ですし曇り空です。ナイトランの走行は一度していたので感覚はわかりますが、クラッシュの件もあり、かなり緊張してきました。

曲がりなりにもプロのレースにドライバーとして参加しているので「出来ません」や「ちょっと待って」の言葉はありません。軽口や無駄口も必要ないので、自身でかみ締めていましたが、後で話を聞くと、話しかけにくいくらい悲壮な顔をしていたそうです(笑)

水分補給用のボトルに、スポーツ飲料と水を半分ずつ混ぜた飲み物をいれ、眼鏡もナイトラン用に交換して曇り止めを施して準備OKですが・・・身体が鉛みたいに重く、地に足が着いている感じが全くしません。天候も雨は未だ大丈夫のようです。

さぁ!私の走行の時間がやってきました!

山村選手がピットインして、私と交代です。1秒でも早く用意をしないといけません。車が停止して内臓ジャッキアップ装置にエアが入り、タイヤ交換の為に車がジャッキアップされます。そして彼の無線機を外して、ドリンクを外し降りるフォローをします。心臓の鼓動と汗が噴出します。

私が乗りこむと今度は山村選手が、無線機の接続、そしてシートベルトを締めてくれます。ヘルメットをしていると5点式のシートベルトを自分で装着するのは非常に難しくなります。

タイヤ交換が終わり、給油も終了し、チーフメカの和尚さんが車の前で、無線で「エンジンスタート」の合図。キルスイッチ、デフクーラースイッチ、リミッタースイッチをONにしてスタートボタンを押し、「ウォン・・・」13時間走り続けた車とは思えないエンジンの軽さです。さぁ・・・皆が見守る中、スタート!・・・「ぷっすん」・・・やってしまいました。

よりによって本番でエンストするとは・・・汗が噴出しましたが、気を取り直してスタートしてピットロードを、リミッターを効かせながら走り、いよいよコースインです。





視界は、思っていたより明るくなり曇っていますが、薄暗い夜明けの感じで走行に支障はありません。制限速度解除地点でスイッチを切り6000回転で2速にシフトアップします。

ピットアウトラインを踏まないように丁寧に1コーナーを抜けて、ライトが照らし出す薄くらい路面を見て驚きました。
驚くほどの数のタイヤカスが、本当にびっしり左右に転がっています。全てのコースに飛んでいます。

大きいもので、拳台で形も細長いものから丸いものまで様々です。これを踏んじゃうと大変です。タイヤに張り付いて取れにくくなります。

コースを譲るのもラインを少しずらしてもタイヤカスを踏まないように心掛けました。
プロのパッシングは「うまい」の一言です。抜く際にラインを変えてしまうとタイヤカスを踏んでしまいます。彼らは、ちゃんとパッシングマネージメントをしてストレートの区間に合わせて抜きます。抜き方もフェアですし(抜かれてばかり・笑)感心した出来事です。

意外にもドリンクにも驚かされました。

パイプを口に噛んだまま走行するのですが、1コーナーのブレーキングで逆流して勝手に口に注入されるのです。こぼすわけにもいかないので、強制的に飲まされます。横Gが掛かる場所でも強制的に飲まされてしまいました(笑)10周もすると容量も少なくなり快適にはなりました。

アタックしたい衝動を抑えながら、スムーズな走行を心掛けようとするのですが、走行前に無言だと力が手に入るので喋りながら走ることを考えていました。

「コーナー手前で減速、ブレーキリリースと共にステアを入れて、そぉーっと・・・アクセルを少しずつ開けてアクセルで旋回」

パイプを口にくわえながら、念仏のように唱えながら走ります。思っている事を口に出して走るのですが、これが、なかなか効果があり(そう思っています・笑)気合や、ボーっとしそうになる頭と身体をコントロールできました。

眼鏡を使用しているので、運転席側の窓は全開です。何度走ってもストレートはしびれます。加速感と「ウォォーン」と言うエンジン爆音と「ゴオォォォ」と言う風の轟音・・・200キロオーバーで窓開けっ放しですから、想像付くかと思います。体験したい方は高速道の100キロの速度で窓を開けると少し体感できますが、本当に怖いですよ(笑)

練習走行では感じませんでしたが、ストレートで速い車に抜かされると「スリップストリーム効果」つまり空気の流れを体感しました。
200キロオーバーで、まん前を走られるのは、風切り音も少なく室内も静かになり車も引っ張られるだけなので問題無いのですが、斜め前に走られると大変です。

乱気流?運転席の窓からの風が明らかに変り、巻いた風が侵入してくるのです。ヘルメットや身体を前に引っ張ろうとする風が半端じゃなく、室内は轟音に包まれますし。1コーナーの突っ込みの本人の挙動も、車の挙動も微妙に怪しくなり、とても緊張を強いられます。

30分走った所で、ヘアピンでコースアウトした車輛が、タイヤカスを撒き散らし踏んでしまって、左回りのコーナーがグリップせずに低い速度なのに流れてします。

5周で何とか取れましたが・・・1時間を経過した時点で、1コーナーを曲がりきれずにランサーが刺さってしまいました。
問題なのは、コースアウトの際に、1コーナーの路面に例の落ちているタイヤカスを、巻き上げて、路面一杯に散らばっているのです。

避けようも無く、レコードライン(タイヤカスの無い綺麗なライン)そのまま走ると・・・「ゴンゴン」・・・右のフロントサイドとリアにでっかいカスを拾ったようです。

さきほどのタイヤカスより比べられないくらい振動がでます。ストレートでも「ドンドンドンドン・・・」とステアをしっかり持っていないとどこかに降り落とされるような感じです。

左回りのコーナー時にタイヤカスの影響で、低い速度でも回れません。
4コーナーと速度を乗せないといけない5コーナーとヘアピンの8コーナーが、少しでも速度を上げると「ゴンゴンゴン」とグリップせず、コースアウトしそうになるくらいです。

タイムもグンと落ちましたが、10周走って落とすことに成功し「よーし」と思った矢先・・・監督から「少し早いですが後2周でピットインしてください」と指示がでて残念ながら、十勝のS耐久初体験走行は終了です。

ピットインして次のドライバーの白木選手のフォローをして終わりました。
チーフメカの和尚さんから「体調どうですか?タイムが悪くなったので急遽いれましたが」

「えー?大丈夫ですよ。平気です〜。タイヤカスが付いたので落とすまでペース上げられなくって、・・・」
「そうなのですか〜言って下さいよ〜無線で」と苦笑いされました。

あらら、使い慣れていない無線だったので、うっかり報告忘れていました。ごめんなさい。

まだまだ走れたので、残念でしたが、でもプロのレースをドライバーとして走ったと言う達成感と車を壊す事無くバトンタッチした事で、ホッとしながらヘルメットを脱ぎました。

結果、またぶつけられてフロントフェンダーを破損して、修復に20分かかり、作戦通りにはいきませんでしたが総合22位、クラスでは6位となりました。

ゴール後のウィングラップでは、全員がコースサイドに出て、全ての車に拍手を送り、とても感動的なラストを体験しました。
チーム車輛の27号車は、何とクラス1位に37秒差まで詰めましたが、届かずに2位となりましたが、表彰台となりました。
表彰式では、片山右京選手と3位になった近藤真彦選手が、シャンペンの掛け合いをして観客が一番盛り上がりました。

チームドライバーの皆でアドレス交換や写真の撮り合い、サイン会(右京さんと橋口さん)は楽しかったです。キャップにお二人のサインを頂いたのですが、欲しかったADVANのウィナーキャップよりも大切な宝物になりました。





72号車のE36M3 白木洋平選手(プロ)・橋口たかし選手(漫画家)・山村選手(白木選手のFJ時代の友人)・森山了
27号車のE46M3  木村崇選手・小林且雄選手(プロ)村田信博選手(エンドレスプロドライバー)・片山右京選手(元F1パイロット)】